Chapter 2 - 迷路の街の歩き方
 おや、お前さん方、見ない顔だね。
 ほう、今日越してきたのかい。
 そうだったね、この街は教育に力を入れているからね。
 小学校が三つ、中学校も二つあるからねぇ。
 ならば、昔から住んでいる儂から一つ忠告だ。
 この街で行動するのなら、車や自転車ではなく徒歩をお勧めするよ。
 え? 公共交通機関もないから車は必需品だって?
 ふむ、ニ~三日もすればすぐにわかるさ。
 何しろ、この街は迷路さね。
 昨日通れた道が今日はもう通れなくなっている。
 今日通れなかった道が明日には通れたりね。
 それは乗り物に限った話だ。
 だから徒歩が一番なのさ。
 ああ、そうそう、建物を目印にするのもやめたほうがいい。
 明日も存在するとは限らないからね。
 地図も買わないほうが良い。役に立たないからさ。
 方位磁石を持ち歩いて、方角を見失わないようにすることさ。
 え? リアルダンジョン? 何だね、それは。
 ……ふぅん、確かにそれは言いえて妙だね。
 ああ、そうそう、君たちの言葉を借りて言うなら、
 この街には奇声を上げて襲ってくる奴やら、子供を攫ってしまう悪い奴やらがいるからな。
 これをあげよう。防犯ブザーだよ。
 襲われた時、道に迷った時に紐を引っ張れば青年団やお巡りさんたちがすぐに助けに来るからね。
 肌身離さず持っとくことだ。
 ああ、行ってしまったか。
 さて、今度の一家はいつまでもつかねぇ。
 水道光熱費が安くて教育にも力を入れている、
 子供のいる家庭に住みやすい街なんて謳っちゃいるが。
 都市開発だか何だか知らんが、道はどんどんややこしくなり。
 学校が近くにあるって言うのに文具店も本屋も潰し。
 スーパーだって次々に道に変わっちまって、今じゃすっかり買い物難民だ。
 まったく、本当に住み辛くなったもんだよ。
 人を呼び込むつもりで追い出しちまっているってことに、
 いつになったら気付くのかね。         
